念願だった牧場経営への新規参入を実現
畜産酪農部畜産酪農課 北部営業所
フリーストールではベッドが1頭ずつに仕切られ、エサは共通の通路から与える
舞鶴市の南
飼養頭数、農家戸数はともに減少
京都府内の酪農及び肉用牛生産は、人手不足や輸入に頼る飼料価格をはじめ生産コストの上昇などにより、生産基盤の弱体化が懸念されています。
実際、飼養頭数、農家戸数はともに減少しています。乳牛は2013年度の4535頭から2018年度は3590頭(79.2%)に、肉用牛は同年度6522頭から5708頭(87.5%)に減少。農家戸数は、2013年度の酪農73戸、肉用牛95戸が2018年度は酪農50戸(68.5%)、肉用牛75戸(78.9%)と減っています。
また、60歳以上の経営者が占める割合は2019年度は酪農が54%、肉用牛が67%となっており、高齢化も進んでいます(2021年8月「京都府酪農・肉用牛生産近代化計画書」より)。
搾乳に向かう牛たち。牛舎内は自由に歩き回れる
現在、JA京都管内の農家戸数は、酪農38戸、肉用牛(和牛繁殖)47戸です。そのうち京都府北部の福知山市・綾部市・舞鶴市・宮津市・京丹後市、与謝野町・伊根町を管轄するのがJA京都畜産酪農部畜産酪農課北部営業所です。
「現在、北部管内には酪農16戸、和牛繁殖35戸があります。経営の維持・強化には、次世代を担う人材の確保と育成が重要です。後継者がいる農家の確実な経営継承を支援するとともに、後継者がいない農家は第三者継承を推進するなど考えていかなければならない」と北部営業所の山根一志所長は話します。
周囲に助けられ「第三者継承」を実現
畜産酪農経営が厳しさを増す中、2018年に酪農家として新規就農したのが、舞鶴市下漆原の南素さんです。
ミルカーを取り付け、搾乳をする南さん
兵庫県加古川市生まれの南さんは、日本三大和牛「神戸ビーフ」「松阪牛」「近江牛」の素牛として知られる「但馬牛」に興味を持ち兵庫県立但馬農業高等学校(養父市)、兵庫県立農業大学校(加西市)で学びました。卒業後は地元で和牛繁殖をやりたかったそうですが、そういう土地柄でなく断念。京都府京丹後市の野村牧場や北海道の複数の牧場で酪農の研修を積みました。
「野村牧場では、バイタリティあふれる社長のもと、現場の作業から経営までみっちりと学びました。また、北海道では本場ならではの酪農を目にしました。それぞれの経験がいま生きていると思います」と南さんは言います。
そして42歳の時、「第三者継承」という形で独立しました。手に入れた牧場施設は総面積2825㎡。フリーストール式の牛舎、倉庫、糞尿から肥料をつくるプラントなどがそろっており、隣に住む山下六男さんの持ち物でした。綾部市の酪農家が借りていましたが、地元で牛舎を持つことになり、その後を借りることができました。
「市やJAから話があり、山下さんからは『使ったらいいで』と温かい言葉をいただきました。近くに数軒、畜産農家の先輩がおられ、助言をいただいたり、最初の牛は安く譲っていただきました。また、山下さんや関係機関の方々に、牛舎の修理を手伝っていただくなど、周りの方々の協力なしでは今日までこれませんでした。感謝しかありません」と南さん。山下さんに紹介してもらった近くの家に住み、地元の消防団にも所属しています。
「南さんは人柄が良く、地元の人とも良い関係が築けています。第三者継承は知らない所で事業を始めるわけですから、実はコミュニケーションづくりが一番大事です」と山根所長は話します。
担い手の発掘・育成に新たな取り組み
初期費用の資金繰りがネックとなっている新規参入を、第三者から事業を継承することで初期費用を抑えて実現した南さん。3月で4年が経過し、5年目に突入します。その間、飼養頭数も順調に増えました。現在は搾乳20頭、育成4頭、合計24頭と、当初の計画通りに進んでいます。
「まだまだこれからです。フリーストール式の飼育で牛のストレスを軽減させることでコストを低減させ、無理のない経営を続けていきたいと思います。また、今後は輸入に頼っている飼料の一部を自分でまかなうなど更なるコストカットも考えていきたい」と南さんは言います。
山根所長は「昨年、京都府は、畜産業の担い手育成を支援する『京の畜産応援隊』を設立しました。府や市町村、JAなど関係団体の担当者で構成し、担い手の発掘・育成に取り組むとともに、畜産農家の経営基盤の整備を強化し、畜産業の持続的発展を目指すためにきめ細かな支援活動を行うものです。
昨年12月に亀岡市で開かれたキックオフ会議の中で南さんは自らの体験を披露されました。このような就農希望者と経営移譲農家とのマッチングによる継承も進めていければと思います」と話します。
畜産酪農部畜産酪農課 北部営業所
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